
新世紀となった2000年10月7日。20世紀最後のミレニアムイヤーで浮つく世間の中、
もっとも都会的で尖った最先端の国産ヒップホップが本作であった。

NMU Official HP
NITRO MICROPHONE UNDERGROUNDのメンバー
大所帯ヒップホップ・クルー、NITRO MICROPHONE UNDERGROUND結成当初のメンバーは下記の8人。
※S-WORD(スウォード)は後に脱退
1975年生まれのメンバーが大半を占め、当時25歳前後の若い面々がシーンに新たな風を吹き込んだ。
- GORE-TEX(ゴアテックス)
- DELI(デリ)
- BIGZAM(ビグザム)
- XBS(エックスビーエス)
- SUIKEN(スイケン)
- DABO(ダボ)
- S-WORD(スウォード)
- MACKA-CHIN(マッカチン)
Daboをはじめメンバーの多くはMuro、Twiggyらマイクロフォンペイジャーのフォロワーで1996年7月7日、日比谷野外音楽堂で開催された伝説のイベント「さんぴんキャンプ」では、
MuroのLive中にMACKA-CHIN、GORE-TEXが参加、Daboら楽曲には参加していないメンバーも賑やかしとしてステージに上がっていた。
新しい「渋谷のヒップホップ」の象徴となったNITRO MICROPHONE UNDERGROUND
CISCO、MANHATTAN RECORDSをはじめ世界有数のレコード店がひしめく通称、レコード村を形成していた渋谷は、
クラブカルチャーの側面から見ても「Club Harlem」を筆頭に東京の他の地域よりヒップホップ箱が多く、日本のヒップホップ・カルチャーの中心的な存在であったが、
90年代、渋谷・宇田川町にオープンしたショップ「SAVAGE!」からMUROが発信していたヒップホップをダイレクトに受け継ぎ、
「渋谷のヒップホップ」の最進化形を示したのが本作であった。
千葉県出身のDabo、Deliなど全員が東京出身なわけではないが、夜毎に渋谷のクラブを徘徊して鎬を削ってきた彼らは、
客演、ソロ活動などを通じて渋谷において着実にプロップスを獲得しつつあった。
そして、満を持したタイミングでリリースされたフルアルバムが本作だ。
アルバム冒頭を飾る「NITRO MICROPHONE UNDERGROUND」は渋谷のヒップホップ・シーンにおいて中心的な存在であったDJ WATARAIプロデュース、
同じく渋谷のClub Harlemでレギュラーを務めるDJ HAZIMEもプロデュースに加えてLIVE DJとしてもバックアップ。
MURO主宰の「K.O.D.P. (King Of Diggin’ Production)」のメンバーDJ Viblamや渋谷レコ村の裏番長 Ita-Cho(Mr. Itagaki)もクレジットに名を連ねるなど、
渋谷のヒップホップ・シーンが彼らを総力でサポートしていた様は、Nasのデビュー・アルバム「Illmatic」リリースにあたって、
ニューヨーク中の有力プロデューサーが集ったのにも似ている。
そして「渋谷の街全体が総力でサポートする最新のヒップホップ」として本作はリリース後、爆発的に人気を集め彼らは一躍、時代の寵児となったのである。
大所帯クルーならではの醍醐味
総勢8名のキャラ立ちした大所帯クルー、NITRO MICROPHONE UNDERGROUNDは和製Wu-Tang Clanさながら、
制御不可能なエネルギーを本作において録音することに成功したのである。
倍音を操る当時随一のフロウ巧者Dabo、高音域の類稀な声質が武器のDeli、奔放な言葉選びのSuiken、ダミ声の個性的なラップを聴かせるGore-Texなどそれぞれが一聴して判別できる個性を備えており、これまでの日本語ラップシーンにはなかった集団芸の醍醐味が本作にはあった。
音楽的にも幅広い作品=「NITRO MICROPHONE UNDERGROUND」
また、本作リリース時のUSヒップホップ・シーンは従来のサンプリング主体のビートからSwizz Beats、Timberlandら「非サンプリング」の新世代プロデューサーが台頭し始めた過渡期であったが、
このアルバムは「非サンプリング」トラックとDJ Viblam手がけるOld Schoolライクなトラックが同居しており、音楽的にも本場の模倣ではない、独自の渋谷(日本)のヒップホップを表現することに成功していた点は特筆すべきだろう。
彼らはラップスキルのみならずファッションセンス、ヒップホップIQの高さも兼ね備えており、
幅広いトラックを乗りこなせるだけの資質を渋谷で身につけていたのだ。
ヤンキーではなく、渋谷最先端の不良。そんなスタイリッシュな打ち出しは、全国の若者を魅了した。
また、日本随一のエンジニア、D.O.I.氏が参加した本アルバムは音質の良さも特筆もので、
とりわけ表題曲の「鳴りの良さ」は圧巻で、本作のハイライトとなった。
いまだにジャパニーズ・ヒップホップ・クラシックとしてフリースタイル・バトルでも使用される機会も多いので、
若い世代にもお馴染みの楽曲であろう。


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