90'S HIPHOP

90s Hiphop / The Roots「Do You Want More?!!!??!」(1995)

フィラデルフィア出身のHiphop Band、ザ・ルーツ(The Roots)が自主制作のデビュー・アルバム「Organix」(1993年)からEP「From The Ground Up」(1994年)のリリースを経て、メジャー・レーベル(Geffin)からリリースした2ndアルバムが本作だ。

Stetsasonic - The Hip Hop Band (Interlude)
Stetsasonic「Hiphop Band」

Old School期の生演奏でのブレイク・ビーツの取ってつけたような再現を除けば、「Hiphop Band」の元祖と言えばステッツァソニック(Stetsasonic)が思い起こされるだろうが、The Rootsは凄腕ヒューマン・ビートボクサーのRahzel(ラーゼル)、ドラマー&バンドリーダーのクエストラブ(Quest Love)、リリカルかつテクニカルなMC ブラック・ソート(Black Though)などメンバー個々のスキルも高く、ヒップホップとバンドの融合の完成度という面では歴史を更新するほどに頭抜けた存在だった。

「生演奏のバンドはヒップホップにはそぐわない」という風潮

95年当時、本家たる東海岸ヒップホップシーンの空気として「生演奏のバンドはストレートなヒップホップではない」という風潮は確かにあった。ギャングスター(Gangstarr)のグールー(Guru)がジャズ・ミュージシャンたちと制作した「Jazzmatazz Vol 1」(1993年)はニューヨークのヒップホップシーンでも一部からは「Guruはミュージシャンになりたいのか?」などと酷評されていたし、ハードコアでストレートなヒップホップこそが王道。といったムードはThe Rootsには向かい風であったろう。実際、デビュー・アルバム「Organix」に至ってはシーンからはほぼ無視されていた。

余談にはなるが生バンドの醍醐味とヒップホップのエッセンスを見事に融合させた本作ですら「ドラムがヒップホップ的ではない」という批判はちらほらあった。そうした批判を受けて制作されたサードアルバム「Illadelph Halflife 」(1996年)は、よりサンプリング・ヒップホップに寄せた作風となっておりこちらも名盤だ。

傑作シングル「Silent Treatment」

The Roots - Silent Treatment
The Roots「Silent Treatment」

本作からシングルが切られた「Silent Treatment」は、上記のような生バンドとヒップホップの融合に懐疑的な声も多い中で、彼らが初めてヒップホップ・シーンに受け入れられた楽曲であった。

LPバージョンではなく、Evil D(イーヴィルD)と実兄Mr. Walt(ミスター・ウォルト)から成るプロデューサー・チーム、ビートマイナーズ(Beatminerz)の手がけたRemixがDJたちから支持を集めたのは彼らにとって本意であったかどうかは分からないが、「Silent Treatment」のシングル盤はラガ風味の"Kelo's mix"、シャープなドラムサウンドが印象的な"Black Thought's '87 And Yours Mix"。いずれもが恐ろしくハイクオリティーで、筆者は一枚のシングル楽曲でここまで作風が違い、それぞれが高品質なRemixの収録された盤を他に知らない。

ともあれ「Silent Treatment」シングル盤での、既にBlack MoonをはじめとしたDopeな作品で東海岸のヒップホップ・ファンから高い支持を得ていたBeatminerzの起用は「吉」と出た。ここで初めてThe Rootsは正統派ヒップホップシーンの一員として認知されたと言っても良いだろう。

ちなみに、これらのRemixとアルバムバージョンはサブスクのAmazon Music Unlimitedで全て視聴することができる。

その他の楽曲

「Silent Treatment」以外にも「Mellow My Man」はプレイすると部屋の温度が下がるような錯覚に陥る、清涼感に満ちた良作。

そしてThe Rootsの代名詞ともなった「Proceed」は以降シリーズ化された重要曲。サブスクのAmazon Music Unlimitedでは以降のシリーズも全て視聴することができる。(しつこくてすみませんw)

The Roots「Proceed」

また、ミニー・リパートン(Minnie Riperton)の名曲「Here We Go」の歌い出し部分を巧みに使用した「Lazy Afternoon」のサンプリングセンスも光る。

まとめ

Jazz Hiphopの先駆けとも呼ばれるThe Roots「Do You Want More?!!!??!」は、その音楽性の高さと先鋭的な作風で本国アメリカ以外にも、ヨーロッパや日本でも高い評価を得た名盤であった。

とりわけ「Silent Treatment(Beatminerz Remix)」はリリース当時からDJ Krush氏をはじめ多くのDJたちが好んでプレイしており、現在でもHiphop Classicとして認知されている。

2022年現在でも来日ライヴを敢行するなど、いまだ第一線で活躍する最重要ヒップホップ・バンド、The Roots。彼らのキャリア初期代表作である本作に耳を傾ける価値は十分にあるはずだ。

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BB

BBです。洋楽・邦楽問わずHIPHOP・R&B・Black Music全般が好みです。 本ブログでは海外のヒップホップ・日本語ラップ・R&B・SAMPLING SOURCEなどなど、名盤のレビューやコラムを中心にHIPHOPカルチャー全般について記していきます。

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