
1979年にシュガーヒル・ギャングの”Rapper's Delight"が世界初のヒップホップ楽曲の録音物としてヒットを記録したが、
シュガーヒル・ギャングは上記楽曲のリリース元となるシュガーヒル・レーベルを主宰するSylvia Robinsonが、クラブのドアマンなど素人たちを寄せ集めて作った即席ユニットに過ぎなかった。
そんな中、ヒップホップ創成期の重要人物、DJクール・ハークの薫陶を受けたブロンクスの「本物のDJ」Grandmaster Flashは、”Rapper's Delight"のヒットに感化されてハーレムのエンジョイ・レコードと契約し、「Superrappin'」を1979年にリリース。
ブロックパーティーで人気のB-Boyブレイクを集めた海賊盤コンピレーション、「Ultimate Breaks & Beats」にも収録されているThe Whole Darn Family 「Seven Minutes of Funk」を弾き直したトラック上で、The Furious 5がマイクを回していく「Superrappin'」は躍動感に溢れる素晴らしいパーティーチューンであったが、残念ながらプロモーション不足でセールスは低調に終わった。
そこで、プロモーションの期待できるシュガーヒル・レコードに移籍したGrandmaster Flash & The Furious Five が作り上げたファースト・アルバムが本作「The Message」である。
余談にはなるが「The Furious 5」には公式ホームページが存在しており、なかなか味のあるOld School Flavaが楽しめるw
ともあれ、この作品が後世に与えた影響は非常に大きかった。
世界初のコンシャスラップ「The Message」
本アルバムの最大のハイライトはなんといっても表題曲「The Message」という古典作の収録。
他の楽曲は当時流行のエレクトロ風ヒップホップ、パーティーラップなど総じて凡庸な出来で、
このアルバムは「The Message」が収録されていること、その一点にのみ価値があると言っても良いだろう。
ニューヨークの貧民街で生きる弱者の苦しみを歌った「The Message」は、社会問題を扱った世界初のヒップホップ曲となった。
特に、メリー・メル(Melle Mel)の
「押さないでくれよ。俺は崖っぷちにいるんだ。自分を見失わないようにいるだけで必死。
この街はまるでジャングル、生きていけるのが不思議なほど。」
Don't push me 'cause I'm close to the edge
I'm trying not to lose my head
Ah-huh-huh-huh-huh
It's like a jungle sometimes
It makes me wonder how I keep from going under
とのラインは、未だに後進のヒップホップ・アクトたちからサンプリングされ続ける珠玉のリリックスだ。
楽曲の全編でゲットーでの生活の苦しみを描写し、同じ境遇のニューヨークの黒人、マイノリティたちから共感を呼んだ「The Message」は市内だけで50万枚ものヒットを記録したが、実はこの曲のコンセプトを考えたのはSylvia Robinsonで、前例のなかった社会問題を扱った楽曲を制作することに対してメンバーは懐疑的であったという。
まとめ
世界初のヒップホップ楽曲「Rapper's Delight」のヒット。そしてこちらも世界初のコンシャスラップ「The Message」誕生の裏には、野心あふれるSylvia Robinsonの手引きがあったが、手段を選ばず暗躍する彼女のバイタリティはヒップホップ黎明期において重要な役割を果たしたとも言えよう。
ちなみにSylvia Robinsonは「Sylvia」名義でコメディアン/映画監督であるMel Brooksのディスコヒット曲、"It's Good To Be The King"へのアンサー・ソング"It's Good To Be The Queen"を自らのレーベルからリリースしており、その商魂の逞しさには敬服するほかない。


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