Biz Markie feat. T.J. Swan「Make the Music With Your Mouth Biz」(1986)から「I'd Like to introduce myself」とのBiz Markieのフレーズをサンプリング、丁寧な自己紹介と共にDeodatoから引用した重厚なビートで幕を開け、Cannonball Adderley「Capricorn」をサンプリングしたジャジーな本編へとなだれ込む一曲目「In the House」からしてただならぬ傑作の雰囲気が漂う本作は、一言で言うならばPete Rock & C.L. Smoothというデュオが残した最高傑作だ。
Rare Grooveからのサンプリング多数、Pete Rockのプロデューサーとしてのオリジナリティと資質の高さを示したEP「All Souled Out」(1991)から名曲「T.R.O.Y.」収録のデビューアルバム「Mecca & the Soul Brother」(1992)にかけて、洗練の度合いを増していった二人のサウンドは、ここに一つの到達点を示したと言えるだろう。
90年代ヒップホップを語る上では欠かすことのできない稀代のプロデューサー、Pete Rockが名機EMU SP-1200を用いて作り上げた本作のサウンドは、これまでのヒップホップ作品にはない暖かみとドープネスが同居するものだった。
アルバム全編がほとんど同じ質感ではあるが、前作の全編似通ったサウンドがいささか冗長にも感じられたのに対して、この作品においてはトータルバランスにおいて、むしろプラスに作用している。
Jazz、Soulなど秘蔵のレコードを用いてskitのひとつひとつに至るまで丁寧に作り上げられた、非序に完成度の高いアルバムであり、Pete Rockに比べると評価される機会の少ないC.L. Smoothのラップも、良い意味でトラックを引き立たせる「ちょうどいい」塩梅で、現在に至るLo-Fi Hiphop、Jazzy Hiphopの元祖となった一枚であるとの見方もできるだろう。
また、アルバムジャケット裏面の写真に見られる膨大な数のレコードも、Pete Rockの「掘り」の深さを窺わせるものだった。

Track listing
- All tracks produced by Pete Rock & CL Smooth
# | Title | Performer(s) | Time |
---|---|---|---|
1 | "In the House" | First verse: C.L. SmoothSecond verse: Pete RockThird verse: C.L. Smooth | 5:27 |
2 | "Carmel City" | C.L. Smooth | 3:52 |
3 | "I Get Physical" | Verses: C.L. SmoothChorus: Pete Rock | 4:54 |
4 | "Sun Won't Come Out" | Verses: C.L. SmoothChorus: Pete Rock | 4:24 |
5 | "I Got a Love" | C.L. Smooth | 5:04 |
6 | "Escape" | Pete Rock | 5:14 |
7 | "The Main Ingredient" | Intro: Pete RockVerses: C.L. SmoothChorus: Pete Rock | 5:17 |
8 | "Worldwide" | First verse: Rob-OSecond verse: Pete RockThird verse: Rob-OFourth verse: Pete Rock | 3:02 |
9 | "All the Places" | Intro: Pete RockVerses: C.L. SmoothChorus: Pete Rock | 5:39 |
10 | "Tell Me" | C.L. Smooth | 4:17 |
11 | "Take You There" | Verses: C.L. SmoothChorus/outro: Crystal Johnson | 4:47 |
12 | "Searching" | Verses: C.L. SmoothChorus: Vinia Mojica | 4:45 |
13 | "Check It Out" | C.L. Smooth | 3:57 |
14 | "In the Flesh" | Intro: Deda and Pete RockFirst verse: C.L. SmoothSecond verse: Rob-OThird verse: DedaFourth verse: Pete Rock | 5:48 |
15 | "It's on You" | Verses: C.L. SmoothChorus: Pete RockOutro: Pete Rock and Grap Luva | 5:21 |
16 | "Get on the Mic" | Verses: C.L. SmoothChorus: Pete Rock | 3:50 |
「Mecca & the Soul Brother」(1992)との比較
本作と並び称されるのが彼らのファースト・アルバム「Mecca & the Soul Brother」で、ヒップホップリスナーの間ではどちらを最高傑作であるか評価が二分されるところではあるが、飛び抜けてできの良い「T.R.O.Y.」というClassicを収録していたファーストも、アルバムトータルでの完成度という見方では本作に遠く及ばないだろう。
Pete Rockの代名詞とも言える名機、emu SP-1200の特性を生かした、フィルターのかかったこもったような質感の極上のループが全編で味わえる本作は、何度繰り返し聴いても飽きのこない永遠のマスターピースだと言える。

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